産婦人科(総合周産期母子医療センター・成育医療センター)
部長 上塘 正人(かみとも まさと)
はじめに
当院産婦人科の特徴は母体胎児、新生児、小児を通した成育医療と婦人科腫瘍医療です。いずれの領域においても高いレベルの医療を提供し、他科との連携により複雑な症例に対しても対応できるように心がけています。
当院産婦人科の特徴
昭和51年(1976年)1月31日に日本で最初の5卵性多胎児が鹿児島市立病院で出生しました。当時の診断法として超音波機器は存在していましたが、まだ未発達で、現在のように画像として見えるものではありませんでした。したがって胎児数も5胎と予測してはいましたが、大きさは不明でした。異様に大きいお母さんのお腹から経腟分娩で出てきた子供達は、体重990gから1800の赤ちゃん達でした。全国の専門医療スタッフとの懸命の努力に支えられた5名の赤ちゃん達は新生児期の危機的状況を脱し、健全な成長を遂げました。これを契機として、児の安全を胎児期から見守る周産期医療の概念が日本に浸透し始めたのです。以来、鹿児島における周産期医療センターの歴史は40年目を迎えようとしています。平成27年5月からは新病院となり、周産期医療センターは、小児部門を加えた成育医療センターとして新たな一歩を踏み出しました。この間、婦人科腫瘍部門においても安定的に医療提供を行っており、平成23年4月から、がん診療連携拠点病院(地域がん診療連携拠点病院)として認められています。
成育医療センターにおいては、若い産科医師、新生児科医師、小児科医師達がその分野を超えてお互いの考え方を理解し、成長する児を子宮内から退院できるまで、また小児期に至るまで連続的にfollow upできる環境が整っています。母体胎児(産科)部門では、危険性の高い疾患をお持ちのお母様や赤ちゃんのために、鹿児島県では唯一の母体胎児ICU (MFICU)が6床設置され、総合周産期母子医療センターとして機能しています。また、その後方ベッドとして40床以上が用意されています。したがって、鹿児島県では年間約15,000件の分娩がありますが、その中のハイリスク妊娠の多くが当院に紹介、または搬送されています。新生児部門は、病床数80床で、新生児 ICU (NICU)が36床あり、未熟児や重症疾患を抱える赤ちゃんを受け入れ、日本最先端の治療を行っています。これらの医療は、県内最大規模を誇る小児部門に支えられており、鹿児島の子どもたちをサポートしています。この3部門を成育医療センターとして統合発展させ、24時間体制で高度な医療を提供しています。
産婦人科医師の業務
産婦人科では、正常分娩とともに産科的高度医療を行うため、救急車やドクターヘリ、防災ヘリを駆使して積極的に母体胎児搬送を受け入れています。MFICUと分娩室はNICUと直結しており胎児期から新生時期への管理がスムースに移行できるように工夫されています。当院は県内で唯一の総合周産期母子医療センターであるため、母体搬送以外でも地域との連携強化をはかっています。一次施設で緊急症例が発生した場合、ドクターヘリで可能な限り医師や救急医を派遣(Doctor Delivery)し、地域における医療資源較差の解消に挑戦しています。診療面では通常の産科管理法に加えて、1990年から胎児胸腔羊水腔シャント術、2007年から無心体ラジオ波血流遮断術、また2014年9月からは双胎間輸血症候群に対する胎盤吻合血管レーザー焼却術などの胎児治療も積極的に行っています。緊急性を要する産後大量出血やDICなどの母体重篤疾患は救急外来やICUで受け入れ、救急専門医師や他科医師とともに迅速な治療を開始し、救命率の向上が得られています。これらの三次施設としての役割と同時に通常の産科外来にも力を注いでいます。教育病院としては正常妊娠の管理も重要であり徐々にその症例数も増加しています。「妊娠と薬」外来も行っています。これは平成17年から始めた厚生労働省事業で国立成育医療研究センターに「妊娠と薬情報センター」を設置し、妊婦あるいは妊娠を希望している女性に対する、最新のエビデンス基にした医薬品に関する様々な相談業務です。また、産婦人科専門医であっても新生児医療を活動の主体とすることも可能です。実際に産婦人科専門医である5名が新生児内科のスタッフとして活躍しています。
婦人科では、子宮筋腫や卵巣腫瘍に対して、鏡視下手術を積極的に取り入れています。婦人科悪性腫瘍領域においては子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、外陰癌、絨毛性疾患等年間約120症例の治療を行っています。治療として子宮頸癌に対する広汎子宮全摘術、放射線治療は化学療法を併用し、リニアックやイリジウムによる密封小線源での根治的照射や術後補助療法を行っています。子宮体癌に対しては、腹腔鏡下手術(骨盤リンパ節郭清を含む)を中心に手術を行っています。卵巣癌に対するstaging laparotomy や debulking surgery、外陰癌に対して、筋皮弁を併用した広汎外陰切除術なども行っています。化学療法も含め、常に最新の治療が行えるようにNRG Oncology(Gynecologic Oncology Group)やJCOG、JGOGの臨床試験に参加し最新の癌治療を行っています。
専門医の養成やその後の研究
優れた臨床専門医となるためには、経験共有による学習という意味でカンファレンスは重要です。毎朝の患者カンファレンスは当直医と病棟医の連携のためには必須です。また週1回の総合回診や医局会でのカルテ回診で患者の把握や治療方針の確認を行います。手術患者においては2回にわたる術前カンファレンス、手術後の結果を踏まえた病理放射線化学療法カンファレンス、ハイリスク妊娠においては新生児産科カンファレンスが行われています。また、教育的なjournal clubも週に2回開催しています。40年前から週1回開催している胎児心拍数モニタリングカンファレンスは、今日まで休むことなく行われています。また、全国8施設が集まって週1回テレビ会議による産科カンファレンスを行っています。
(毎週行われる胎児心拍数モニタリングカンファレンス)
当産婦人科は、日本産科婦人科学会専攻医指導施設、専門研修基幹施設、日本婦人科腫瘍学会専門医修練施設、日本周産期新生児医学会周産期(母体胎児)専門医研修施設、日本周産期新生児医学会新生児専門医研修施設、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医研修施設、日本生殖医学会生殖医療専門医制度研修連携施設などの学会認定施設です。専門医取得においては鹿児島大学、宮崎大学、長崎医療センター、飯塚病院、沖縄県立中部病院と基幹施設同士で連携をしており、人的交流を活発に行っています。
また、鹿児島大学院外大学院制度もあり、専門医取得後、鹿児島市立病院で働きながら研究(医学博士)への道も用意されています。成育医療センターには2名の鹿児島大学院臨床教授が配置され、忙しい臨床の中で大学院生の指導を行っています。また、カルフォルニア大学アーバイン校への短期留学制度もあり、海外施設への留学も可能です。
おわりに
近年、産婦人科医師の減少が問題となっています。しかし、産婦人科ほど人々や行政から切望され、その活躍が期待されている診療科はないということも事実です。当産婦人科では女性医師が50%を占めており、そのうち6名の医師が最近出産されました。しかし、全員が職場復帰を果たし、診療の中心的存在となっています。産婦人科という集団全体で助け合いながら、働き方を変えることで十分に継続可能です。一人でも多くの若い医師が、このやりがいのある産婦人科を志してくださることを祈ってやみません。
若手に伝えたいメッセージ
日本では人口減少が始まっていますが、人生の始まりを扱う診療科は産婦人科です。産婦人科の充実なくして、他の診療科の充実や社会の繁栄はありません。働き方の改善、変化が叫ばれている医療界において、最も先進的な変革が起きつつある産婦人科で働いてみませんか。